近年、自然災害・火災・疫病・テロ等に対するBCP(事業継続計画)が重要視されています。そのなかで建築物において重要な役割を果たす設備に、防災設備があります。
ここで使用する「防災設備」という用語は、国土交通大臣官房官庁営繕部の建築保全業務共通仕様書でも扱っています。そこでは、建築物の防災に対応する設備で、消防法による消火や警報などに係る設備及び建築基準法の避難や防火などに関わる設備を指し、そのほか災害後の対応に関するソフト面も含め防災設備と定義しています。
火災をはじめとする災害は、建物を脅かす最も伝統的かつ深刻なリスクです。いつ起こるかわからず、しかも警報、消火や避難のための設備に不備があると、一瞬にして貴重な建物の価値をなくしかねないばかりか、人命に関わる事態にもつながります。また、サーバルームやデータセンタービル等で通信障害によるサービス停止、膨大なデータ損失が発生すると莫大な経済的損失を招きます。そこで、防災設備に関する法律、そこで義務づけられた点検の内容など、建物を運営・管理する方ならば、必ず知っておかなくてはならない項目を解説します。
1.防災設備とは
一般的に「防災設備」という言葉が使われるときは、「災害を防ぐための設備全般」といったような広くて大まかな意味を表すことが多いでしょう。
一方法律などでは、厳密な定義や種別が定められているのでしょうか?
まずはこの章で、「防災設備」という用語の定義や意味、次章では防災設備の種類などからくわしくわかりやすく説明していきましょう。
一方法律などでは、厳密な定義や種別が定められているのでしょうか?
まずはこの章で、「防災設備」という用語の定義や意味、次章では防災設備の種類などからくわしくわかりやすく説明していきましょう。
(1)防災設備の定義
「防災設備」という言葉を現在の法律の中で検索してみても、厳密な定義は見つからず、使用例も少ないものでした。
つまり「防災設備」という言葉は法律用語ではなく一般的な用語だと言えるでしょう。
「防災設備の計画と設計」(島村 直輝/『電気設備学会誌』39 巻 (2019) 5号)という論文の冒頭では、
「防災設備は、災害から建物とその利用者の人命・財産を守るために設ける設備の総称である」と定義されています。
また、「防災設備に求められるもの」(引地 順、市川 紀充/『電気設備学会誌』34 巻 (2014) 3号)という論文では、
「防災設備には大きく、火災に代表されるような建築設備等に求められるものと、地震や台風などの自然災害に求められるものとに分けられる」と分類しています。
が、多くの場合では、自然災害よりも火災にフォーカスして「防火設備」を指して使われているようです。
つまり「防災設備」という言葉は法律用語ではなく一般的な用語だと言えるでしょう。
「防災設備の計画と設計」(島村 直輝/『電気設備学会誌』39 巻 (2019) 5号)という論文の冒頭では、
「防災設備は、災害から建物とその利用者の人命・財産を守るために設ける設備の総称である」と定義されています。
また、「防災設備に求められるもの」(引地 順、市川 紀充/『電気設備学会誌』34 巻 (2014) 3号)という論文では、
「防災設備には大きく、火災に代表されるような建築設備等に求められるものと、地震や台風などの自然災害に求められるものとに分けられる」と分類しています。
が、多くの場合では、自然災害よりも火災にフォーカスして「防火設備」を指して使われているようです。
2.防災設備の種類
防災設備には、防火設備をはじめとして、災害から人命や財産を守る設備全般が含まれますが、ではそれにはどんな種類があるのでしょうか。
これは大きく分けて、以下の5種類と考えればいいでしょう。
これは大きく分けて、以下の5種類と考えればいいでしょう。
(1)消火設備
消防隊が火災現場に到着するまで火を抑えて建物の延焼を防ぐ設備です。消火設備には主に以下の4つが含まれています。
消火器
消火栓設備
粉末消火設備
スプリンクラー設備
消火器
消火栓設備
粉末消火設備
スプリンクラー設備
(2)警報設備
こちらは火災の発生またはガス漏れを検知し、建物内の方に報知する設備です。警報設備には以下の4つがあります。
自動火災報知機
手動火災報知機
ガス漏れ警報機
非常警報
また火災報知器には差動式と定温式の2種類があり、それぞれ設置する場所が異なるので覚えておくと良いでしょう。
【差動式】
室内の気温が急激に上昇すると作動するシステムで、多くの場所で使用されています。
【定温式】
室内の温度が一定になった時に作動するシステムです。キッチンやボイラー室など急激な温度変化をしやすい場所で使います。
自動火災報知機
手動火災報知機
ガス漏れ警報機
非常警報
また火災報知器には差動式と定温式の2種類があり、それぞれ設置する場所が異なるので覚えておくと良いでしょう。
【差動式】
室内の気温が急激に上昇すると作動するシステムで、多くの場所で使用されています。
【定温式】
室内の温度が一定になった時に作動するシステムです。キッチンやボイラー室など急激な温度変化をしやすい場所で使います。
(3) 避難設備
避難設備は、火災などの災害発生時に迅速な避難するために使われる器具や設備のことです。
こちらを大きく分けると避難器具と誘導灯・標識の2つになり、避難器具の内容は以下のとおりになります。
避難ロープ
すべり棒
避難橋
避難タラップ
避難梯子
援助袋
誘導灯・標識は非常口や避難ルートを示すもので、照明器具がついた誘導灯とついていない標識で分類されています。
誰にでも簡単に分かる、遠くからでも認識できるという2点が必要とされており、色は緑であることが法令で定められています。
こちらを大きく分けると避難器具と誘導灯・標識の2つになり、避難器具の内容は以下のとおりになります。
避難ロープ
すべり棒
避難橋
避難タラップ
避難梯子
援助袋
誘導灯・標識は非常口や避難ルートを示すもので、照明器具がついた誘導灯とついていない標識で分類されています。
誰にでも簡単に分かる、遠くからでも認識できるという2点が必要とされており、色は緑であることが法令で定められています。
(4)消火活動用設備
消防隊がスムーズに消火活動できるように設置されている設備のことで、一般の方は使うことはありません。主な消防活動用設備には、以下の7点が挙げられます。
消防用水(大規模な建物のみ)
連結送水菅
連結散水設備
火災階表示盤
非常コンセント設備
無線通信補助設備(一定規模の地下がある場合のみ)
排煙設備
消防用水(大規模な建物のみ)
連結送水菅
連結散水設備
火災階表示盤
非常コンセント設備
無線通信補助設備(一定規模の地下がある場合のみ)
排煙設備
(5)防火設備・防排煙設備
こちらは火災発生時に火災や煙を感知し、火や煙が広がるのを防ぐ設備です。防火・防排煙設備を大まかに分けると以下の5つがあります。
防火戸
防火シャッター
防火ダンパー
垂れ壁
排煙口
防火設備は建築基準法・建築基準法施行令により、20分間は遮炎できる性能持っていることが規定されています。
また火災発生時の死因は火ではなく煙による窒息死が8割だと言われており、防排煙設備は非常に重要な役割を担っているのです。
防火戸
防火シャッター
防火ダンパー
垂れ壁
排煙口
防火設備は建築基準法・建築基準法施行令により、20分間は遮炎できる性能持っていることが規定されています。
また火災発生時の死因は火ではなく煙による窒息死が8割だと言われており、防排煙設備は非常に重要な役割を担っているのです。
3.防災設備に関する法律
防災設備は、ただ備えればいいというわけではありません。
国や地方自治体が定めた基準に沿って設備を設置し、定期的に安全点検と報告をする義務があります。
下記リンクに非常に忘れがちな消防設備の防災設備にあたる非常用発電機に関することについての記事をご参照ください。
防災設備に関して定めた法律には、以下のようなものがあります。
国や地方自治体が定めた基準に沿って設備を設置し、定期的に安全点検と報告をする義務があります。
下記リンクに非常に忘れがちな消防設備の防災設備にあたる非常用発電機に関することについての記事をご参照ください。
防災設備に関して定めた法律には、以下のようなものがあります。
(1)消防法・消防法施行令
国が「火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行い、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資する」ために制定した消防法と、それに関する細則などを定めた施行令があります。
特に防災設備と関わりの深い条項としては、以下の2つが挙げられます。
1)消防法第8条
一定の規模以上の建物を「防火対象物」と定め、消防計画の作成や避難訓練の実施、消火設備や避難設備などの防災設備の管理や、定期点検の義務が定められています。
特に、消防法第8条の2の2による「防火対象物定期点検報告制度」は、建物の所有者・管理者が「防火対象物点検資格者」に依頼して定期的に点検と、消防機関への報告を行う必要があるため、知っておかなければならない重要な条項です。
2)消防条第17条
「防火対象物」の消防用設備(消化器、火災報知器、避難設備など)の設置や管理、定期点検の義務が定められています。
特に、消防法第17条の3の3による「消防用設備等点検報告制度」は、建物の関係者が「消防設備士」や「消防設備点検資格者」に依頼するなどして定期的に点検と、消防機関への報告を行う必要があります。
「消防用設備点検」で点検するものは、前章で挙げた防災設備5種のうち、
消火設備:消化器、消火栓など
警報設備:火災報知器、非常警報など
避難設備:避難はしご、誘導灯など
消火活動用設備など:排煙設備など
の4種です。
特に防災設備と関わりの深い条項としては、以下の2つが挙げられます。
1)消防法第8条
一定の規模以上の建物を「防火対象物」と定め、消防計画の作成や避難訓練の実施、消火設備や避難設備などの防災設備の管理や、定期点検の義務が定められています。
特に、消防法第8条の2の2による「防火対象物定期点検報告制度」は、建物の所有者・管理者が「防火対象物点検資格者」に依頼して定期的に点検と、消防機関への報告を行う必要があるため、知っておかなければならない重要な条項です。
2)消防条第17条
「防火対象物」の消防用設備(消化器、火災報知器、避難設備など)の設置や管理、定期点検の義務が定められています。
特に、消防法第17条の3の3による「消防用設備等点検報告制度」は、建物の関係者が「消防設備士」や「消防設備点検資格者」に依頼するなどして定期的に点検と、消防機関への報告を行う必要があります。
「消防用設備点検」で点検するものは、前章で挙げた防災設備5種のうち、
消火設備:消化器、消火栓など
警報設備:火災報知器、非常警報など
避難設備:避難はしご、誘導灯など
消火活動用設備など:排煙設備など
の4種です。
(2)建築基準法
国が「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資する」ために定めた法律です。
その第12条では、「特定建築物」と規定された建物の所有者・管理者に対して、建物自体やその設備の定期的な点検・報告を義務づけています。
これを「定期報告制度」、通称「12条点検」と呼んでいて、その中には、前項で挙げた防災設備5種のうち、
・防火設備:防火扉、防火シャッターなど
の点検が含まれています。
その第12条では、「特定建築物」と規定された建物の所有者・管理者に対して、建物自体やその設備の定期的な点検・報告を義務づけています。
これを「定期報告制度」、通称「12条点検」と呼んでいて、その中には、前項で挙げた防災設備5種のうち、
・防火設備:防火扉、防火シャッターなど
の点検が含まれています。
(3)火災予防法令
国が定めた法律に加えて、各市町村が火災予防のために定めた条例もあります。
ここで覚えておいて欲しいのは、防災設備5種のうち、消防法で管理・点検が義務づけられているものと、建築基準法によるものとが分かれているということです。
整理すると、以下の図のようなイメージになります。
ここで覚えておいて欲しいのは、防災設備5種のうち、消防法で管理・点検が義務づけられているものと、建築基準法によるものとが分かれているということです。
整理すると、以下の図のようなイメージになります。
4.防火設備とは
防火設備とは、建築基準法に規定されている建物内において延焼を防止する為(又は延焼リスクの高い部分)に設けられる防火戸(ぼうかど)(防火扉ともいう)のことで、シャッター形式の防火シャッター、霧のカーテンを形成するドレンチャー設備(開放型スプリンクラーの一種)などがあり、これらも防火戸の一種とされている。
また、建物外部の開口部から隣接建築物からの延焼を防止するための袖壁や塀、鉄製網入りガラスを用いたドアなどが防火設備になります。最近では、遮炎性能を持たせたスクリーン(燃えない布)で防火戸などの代替をするものもあります。
主として、炎を遮るためのものをいい、よく「1時間耐火」とか「20分耐火」と呼ばれる部分がここになります。1時間耐火(遮炎)は特定防火設備で、20分耐火(遮炎)は防火設備になります。
基本的に防火戸は防炎性能を規定していて防煙性能についての規定はありません。ですが現実的には防火戸などを防煙区画にも併用したりするので、防火戸の中には防煙性能を持っているものも存在しています。
特定防火設備は、火災の火炎を受けても1時間以上火炎が貫通しない構造のものと規定されています。(通称、1時間耐火。)(かつての甲種防火戸)よく言われる防火戸はこの特定防火設備の防火戸を指します。また特定防火設備には以下の種類があります。
防災設備や防火設備と名前が似ていてわかりづらいですよね。
その違いについて、防火設備の理解を深めていきましょう。
また、建物外部の開口部から隣接建築物からの延焼を防止するための袖壁や塀、鉄製網入りガラスを用いたドアなどが防火設備になります。最近では、遮炎性能を持たせたスクリーン(燃えない布)で防火戸などの代替をするものもあります。
主として、炎を遮るためのものをいい、よく「1時間耐火」とか「20分耐火」と呼ばれる部分がここになります。1時間耐火(遮炎)は特定防火設備で、20分耐火(遮炎)は防火設備になります。
基本的に防火戸は防炎性能を規定していて防煙性能についての規定はありません。ですが現実的には防火戸などを防煙区画にも併用したりするので、防火戸の中には防煙性能を持っているものも存在しています。
特定防火設備は、火災の火炎を受けても1時間以上火炎が貫通しない構造のものと規定されています。(通称、1時間耐火。)(かつての甲種防火戸)よく言われる防火戸はこの特定防火設備の防火戸を指します。また特定防火設備には以下の種類があります。
防災設備や防火設備と名前が似ていてわかりづらいですよね。
その違いについて、防火設備の理解を深めていきましょう。
(1)常時閉鎖型防火戸
人が戸を開いている時だけ開放され、それ以外は常閉型ドアチェック(開状態を維持しない構造のもの。)などにより戸が自動的に閉鎖するものになります。「常閉防火戸」ともいいます。
このタイプの防火戸は、煙感知器連動タイプなどに比べて非常に安価で設置出来るために、階段などの竪穴区画の出入口によく設置されていました。
ですが、常開出来ない(通行に際し毎回押し開けないといけない)などの理由により物品などで戸を開放状態で固定してしまい、常閉防火戸としての意味をなさないケースが多々ありました。
近年では煙感知器連動タイプを用いるか、あまり人の出入りがない部分にしか常閉防火戸を設置しなくなりました。
このタイプの防火戸は、煙感知器連動タイプなどに比べて非常に安価で設置出来るために、階段などの竪穴区画の出入口によく設置されていました。
ですが、常開出来ない(通行に際し毎回押し開けないといけない)などの理由により物品などで戸を開放状態で固定してしまい、常閉防火戸としての意味をなさないケースが多々ありました。
近年では煙感知器連動タイプを用いるか、あまり人の出入りがない部分にしか常閉防火戸を設置しなくなりました。
(2)随時閉鎖型防火戸
上記常閉防火戸とは異なり、常時防火戸を収納(開口部を開放状態)しておき、火災時に煙感知器などからの信号を受けて防火戸を収納部分から開放して開口部を閉鎖する方式になります。
常閉防火戸に比べて費用はかかりますが、物品などで閉鎖障害(開放状態で固定)となりにくいというメリットもあります。
開口部閉鎖に鉄製の扉がスイングして閉鎖する防火戸、天井からシャッターが降下してきて閉鎖する防火シャッター、またこの防火シャッターの代わりに防炎性能のあるスクリーンを用いるものもあります。この防火スクリーンはエレベーターの乗り口などによく使用されています。
また自家発電設備の設置基準には建築基準法によるものと消防法によるものがありますので間違えないようにしたいものです。
本日はここまでです。皆様今週もご安全に!
下記に見ていただきたい記事のリンクを貼らせていただきます。良ければご覧ください!!
常閉防火戸に比べて費用はかかりますが、物品などで閉鎖障害(開放状態で固定)となりにくいというメリットもあります。
開口部閉鎖に鉄製の扉がスイングして閉鎖する防火戸、天井からシャッターが降下してきて閉鎖する防火シャッター、またこの防火シャッターの代わりに防炎性能のあるスクリーンを用いるものもあります。この防火スクリーンはエレベーターの乗り口などによく使用されています。
また自家発電設備の設置基準には建築基準法によるものと消防法によるものがありますので間違えないようにしたいものです。
本日はここまでです。皆様今週もご安全に!
下記に見ていただきたい記事のリンクを貼らせていただきます。良ければご覧ください!!